さて、今作の舞台設定やテーマについては理解できたのですが、ビジュアルについて詳しく伺っていきたいと思います。今作のキャラクターデザインを手がけるイラストレーターさんは最初からMika Pikazo(ミカ ピカゾ) ※5さんに決まっていたのでしょうか。
※51993年東京都生まれのイラストレーター。高校卒業後、南米の映像技術や広告デザイン、音楽に興味を持ち約2年ブラジルへ移住。帰国後、キャラクターデザインを始め、アパレルブランドのロゴ・グッズデザイン、ライトノベルの装画やCDジャケットなど幅広いジャンルのアートワークを手掛ける。
候補の方は何人かピックアップしていました。
若い世代の方からも受け入れてもらえそうな絵柄で、 いろんなキャラクターを描き分けられるような画力のある方が条件で。
そのなかでもMika Pikazoさんの絵は カラフルでポップでビビッドで、 派手な演出を目指した今作にもぴったりで、 開発チーム満場一致でこの方がいい!ってなったんです。
すごく鮮やかでキラキラで、
僕らが目指しているものを持っている、 と感じましたね。それで、すんなり決まったんですか?
ありがたいことに、すぐに「やりたいです」とおっしゃってくださいました。
キャラクター数が多く数年スパンのお仕事になるのですが、 ちょうどスケジュール的にも大丈夫そうなタイミング、ということで。
Mika Pikazoさんには、やはりいつも通り詳細を伝えずに、
いきなり「キャラクターを50体ほど」ってオファーしたんですか?(笑)そうですね・・・(笑)。
インテリジェントシステムズさんからの依頼で
ゲームで50体ってオファーしたら もう「これ、ファイアーエムブレムだ」ってわかりますよね?(笑)まあ、少な目に言って苦労をかけてしまうのも良くないので・・・
ただ一点ご自身が気にされていたのが、 普段若い年代のキャラクターを多く描いていらっしゃるので、 ひょっとしたら苦手なものもあるかもしれないということで。
確かに「ファイアーエムブレム」って、 年配の渋いキャラ、鎧、武器に加えてペガサスみたいなものも出てくるので かっこいい貴族とか、可愛い女の子が描けるだけじゃダメなんです。
ペガサスを描くことってそんなにないですよね(笑)。
ペガサスの翼はどこからはえているのかわからない、
どうやって乗るのかわからない、 とイラストレーターさんから言われたこともありますね(笑)。でも、Mika Pikazoさんは「新しい挑戦をしてみたい」とおっしゃって、
頑張ってくださいました。それで、最初に描いてもらったキャラクターは何だったんですか。
最初はリュールとセリーヌです。
まずはベースとなる男キャラと女キャラを描いていただきました。
こちらが初稿のラフデザインの一部です。
設定をもとに髪型や配色など、
ここから何度か社内スタッフとやり取りを繰り返しつつ、 キャラクターのイメージを固めていきました。
最初のラフの段階からすごく鮮やかな配色なんですね。
これがMika Pikazoさんの絵の特長ですよね。
要所要所に差し色を入れたりして、うまくバランスを取っている。
実際の絵を見ていただくとより分かりやすいんですけど、 原色系の色を使ってるけどベタ塗りにならず、自然な感じに仕上がっているのが Mika Pikazoさんの絵の良いところなんです。
スーパーファミコンの頃の「ファイアーエムブレム」のキャラクターって
原色のイメージが強い印象だったと思うんですけど、 そういうのを彷彿とさせられて良いですよね。当時はRGB※6の色を混ぜずにB100%とかで
特にファミコン版は、キャラひとりに使用できる色数が 少なかったのにもかかわらず、登場キャラがたくさんいました。
だから、色だけで特徴づけていたキャラも多くて・・・ その影響もあったのかもしれないですね。
※6光の三原色である赤(Red)、緑(Green)、青(Blue)の頭文字を取ったもの。この3つの色を組み合わせることで、さまざまな色を表現できるが、初期のゲーム機では機能上の制約から、複雑な配色は困難だった。
今は色数の使用制限なども気にせず、
いろんな色を混ぜられるんですけど、 こうやって全体のカラーバランスをみながら、 それぞれのキャラの色が重複しないように、 性格や外見のイメージにあわせてデザインを詰めていきました。これだけ原色を鮮やかに使いながら全体の統一感を出すのって難しそうですね。
いや、ここまでまとめあげられるのはさすがだと思います。
・・・そうそう、面白かったのが、 Mika Pikazoさんって、ラフの時点でかなり細かい小物まで描き入れるんです。
例えば、カゲツっていうソードマスターのキャラクターがいるんですけど、 彼はほかのキャラクターとは異なる 独自の文化が発達した場所から来た設定でして。
今回、和風の国はゲームに出てこないんですけど ラフを見たら手におにぎりを持っていて(笑)。
そこから逆にアイデアをいただいて、
ゲーム内のイベントに混ぜ込みました。ラフのメモがキャラクターの裏設定に活かされているんですね。
Mika Pikazoさん自身、
そのうえで、「リュールの髪は赤と青にしよう」とか、 「クランとフランは緑と赤にしよう」とか、 今までのシリーズも踏まえていろいろと提案をしてくれました。
ただ、1作目から30年以上経っていまして、
例えば、今作のキャラクターは王族や貴族でありつつも どこかちょっと庶民的で親近感のあるキャラになっています。
まるでSNSで気軽に交流できる有名人のような親近感です。
もちろん、みんな個性があり、尖(とが)ったキャラではあるんですけど。
その中で、気になったキャラクターはいましたか?
自分が一番「なんじゃこりゃー」と思ったのは、動画ユナカですね。
性格も、しゃべり口調も今までには無いようなキャラクターで。
最初は戸惑いましたが、 ゲームづくりを進めているうちにだんだん気になってきてしまって(笑)。
今では大好きなキャラクターです。
僕はフランが好きです。
シリーズを通して回復系の兵種って攻撃ができなくて 守ってあげないといけないキャラクターが多かったのですが、 今回はモンクっていうクラスで、 ふつうに格闘で戦うことができるんですよ。
こういう回復系キャラクターって狙われやすいんですけど、 狙われても自分で戦えるので、楽しいなって。
そういったキャラを強くしていく気持ち良さ、いいよね。
それから、Mika Pikazoさんは3Dキャラクターのデザイン経験もあるので、
3Dで後ろから見たらどうなるのか、ということを 考えながらつくっていらっしゃる印象もありました。そういえば、今回キャラクターは2Dで表示せずに、すべて3Dでつくったものを表示されているんですね。これはキャラクター数も多いし、大変だったんじゃないですか?
そうですね。それぞれのクオリティも追求したので、長い道のりでした。
イラストは平面で比較すると3Dモデルよりも 細かく描き込まれているんですよね。
ですからこれまでは、3Dで思うようにリッチな絵に仕上げられないときに それを補完する目的で2Dのイラストを表示してきていたんですが・・・
今回はSwitchで2作目ということもあって、 オール3Dに挑戦してみたかったんです。
キャラクターを3Dモデルで表示して演出できるようになると、
今回は演出を派手に豪華にしようと考えていましたから、 全部3Dで頑張りたかったんですよね。
今回は戦闘中に出てくるウィンドウ会話のキャラクターフェイスも、
すべて他のシーンと同じ3Dモデルで演出しました。でも、Mika Pikazoさんの絵は緻密ですし、配色の話でもあったように、絶妙のバランスで組み上がっているように見えます。だとすると、それを3Dにするのは苦労されたんじゃないですか? 以前、『ゼノブレイド3』の回でも2Dのイラストを3Dモデルにするお話がありましたが、総監督の高橋哲哉さんが何度もリテイクしたとおっしゃっていました。
そうですね・・・
開発の途中でも、なかなかクオリティが上がらなくて 「このレベルなら2Dのイラストを併用した方がいいんじゃないですか?」 といった話が挙がることがありましたよね。つくり直しは、メインキャラクターだけでも6回以上は行ったはずです。
最終的にはMika Pikazoさんにも京都の開発現場に来ていただいて 結構細かく監修してもらいました。
Mika Pikazoさんにその場で直筆でコメントを入れていただいて、
2Dの絵と比べてどこがどのように違うのかを指摘してもらって、 そのフィードバックをすぐに反映して、 というのを何度も繰り返しました。顔もアップにして輪郭や目など、何度もレタッチ調整をお願いしました。
顔っていろんなパーツからできているので 少しでもバランスを崩すと変な見え方になってしまいますし。
Mika Pikazoさんのイラストを参考にモデリングをしていましたが、
キャラクターによってその完成度にバラつきなどもあって。
そしたらMika Pikazoさんが輪郭や顔のパーツを分類して、 年代や性別ごとに整理したプロポーション資料を提供してくださいました。
その資料のおかげで、3Dモデル化した際に デザインバランスが破綻せずに済みましたし、 各キャラクターの顔立ちをイラストに劇的に似せていくことができました。
さすが、3Dキャラクターのデザインに慣れていらっしゃるだけありますね。
それから、瞳の表現も結構頑張りました。
さきほど原色の色使いが素晴らしいという話をしたんですが 瞳も絶妙のバランスで描かれているんです。
特に難儀だったのが、目の中の虹彩です。
Mika Pikazoさんの描く瞳は虹彩の表現がリッチで、 決してシンプルな表現ではないんです。
瞳は開発の初期段階からかなり入念にすり合わせを行いました。
2Dの絵でテクスチャーを貼りつけるのとは違って、 3Dでしかできない立体的、動的表現を実現したかったんです。
3Dで瞳をつくるのって簡単ではないですよね。真正面からだと問題なく見えても、横からみると破綻している・・・なんてこともあるように思います。そのあたりはいかがでしたか。
それはそれはとても時間がかかりましたが、
瞳を構成する要素を分解して それぞれMika Pikazoさんにフィードバックをもらいながら パーツごとにちゃんと動くように調整していきました。
3Dエディターでぐるぐると動かして どの角度から見ても問題ないか、細かく確認していく作業です。
キャラクターを動かすとちゃんと目線をこっちにくれるようにつくっているので いろんな表情で眼球の動きをテストしたりして、 ひとつひとつクリアしていきました。
・・・ちょっと待ってください。この調整を、全キャラクターするんですか?
はい。もう合宿のように大変でした(笑)。
でも、こうした細やかな調整を頑張ったおかげで ちゃんとMika Pikazoさんデザインの最大の特長である顔と瞳を 大画面に映し出しても問題ないところまで持っていくことができました。
なので、ぜひTVモードでアップになった映像を楽しんでいただきたいです。
これだけ鮮やかな色彩で描かれた世界を、大画面で楽しめたら没入感も生まれそうですね。
さて、キャラクターのデザインが完成したら、キャラクターごとの個性やバトルシーンをつくっていくことになると思うのですが、「派手な演出面」でのこだわりもお聞かせいただけますか。
動画前作『風花雪月』は戦記もので、 たくさんの兵士がいる軍を 「騎士団」として率いて戦う華やかさがあったんですけど、 それが故に3D表現としてはあまり派手な演出ができなかった側面もありました。
キャラクターひとりだけが動いていると、 周りが追従してないように見えてしまったりするので どうしても動きを抑えめにする必要がありました。
でも今回は戦いの演出を「個」でできるので、 走りこんで技を決める、砦から弓を射るなど、 どんどん派手にやってほしい、と インテリジェントシステムズさんにお願いしました。
今回は3Dモデルとカメラワークの演出で
すべてのシーンを表現しているので、 カメラが寄ったときのキャラクターの真剣な表情なども しっかり見せることができました。とくに今作のアートディレクターの寺岡さん※7は
ゲームボーイアドバンスの「ファイアーエムブレム」も ドット絵ながらド派手な戦闘アニメが特長的でしたが そんな過去作をリスペクトしつつ、 今作もそれに負けないくらいのかっこいい演出をつくってくれました。
※7寺岡尚史。株式会社インテリジェントシステムズ・情報開発部所属のアートディレクター。ニンテンドー3DS用ソフト『ファイアーエムブレムif』『ファイアーエムブレム Echoes もうひとりの英雄王』等のモーション制作を担当。
動画フランのパンチとか、めちゃめちゃ気合入ってますよね。
格闘シーンがカッコ良くて 寺岡さんの「好き」が詰め込まれてるな~って(笑)。
(笑)。
今作はキャラクターが成長していくと、
例えば最初のうちは、相手の攻撃を普通に避けるだけ。
でもちょっと強くなると、攻撃を受け流しながら反撃したり、 飛んでくる矢を剣で斬り払ったり、動画成長するとモーションが変わっていくんです。
そういうこだわりも楽しいポイントです。
演出からもキャラクターの成長が感じられるんですね。
あと、これはひょっとしたら
今作から遊び始めていただいた方には 「エンゲージ」する相手によってキャラクターの喋る台詞が変わる、 ということでバリエーションを楽しんでいただけますし、 過去作を遊ばれたことのある方には、馴染みのある台詞を 今作のキャラクターがどのように喋るのか、 そんな組み合わせを楽しんでいただけたらと思います。